2006年01月17日

17、エピローグ

人々が起き出して賑やかになりつつある通りを、背中に槍が刺さった綱を乗せた馬がゆっくり歩いており、その光景に気づいた人々が見守る中で綱の身体がかしいでスローモーションのように落下する。

その横を、外道丸たちを乗せた馬が走り去っていく。

しばらくすると、人々の間から「鬼だ!」「酒呑童子だ!」という声が上がる。
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16、最後の戦い

その頃、寺院から金目のものを奪った般若の一団が、誰も通る者のない通りを傍若無人に馬で駆け抜け、荒れ果てた頼光邸に大挙して入って来ると、盗品を運び覆面を脱ぎながら邸内に土足で上がりこんだ。

覆面を脱いだ顔は、皆かつて頼光の兵どもで、その中にはただ一人金時軍で助かった元検非違使・坂上次郎の顔も見える。

灯りを持った般若の女が、薄暗い邸内の廊下を歩いてきて、ふとある部屋の前で立ち止まり、その灯りをかざして部屋の奥をじっと見る。

「酒呑童子、待っていたぞ!」

と野太い声がして、外道丸に続いて犬丸と猿丸の姿が現れる。

「おのれ、まだ生きておったのか!」

般若の女が、艶っぽいが迫力のある声で言う。

「腕を返してもらおうか!」

といって、外道丸が般若の女に向って飛び掛りながら、山刀で斬りつけると面が縦に割れて、その下から貴族のように化粧を施した綱の顔が現れる。

「なんだその顔は、お主のさもしい心根が透けて見えるようだぞ!」

外道丸があざけるように言うと、怒りに燃えた綱が太刀を抜いて外道丸に斬りかかる。

そしてそれからは、犬丸、猿丸と邸内にいる綱の配下が一緒になって凄まじい戦いとなる。

外道丸と綱の戦いは、人間同士の戦いというよりは、一方が獰猛な熊か虎とするならばもう一方は牙を剥いた狼か狒々のようであり、凄まじいスピードと重量感溢れる戦いを繰り広げる。

そして、犬丸と猿丸が手強い次郎をやっと二人掛りで仕留め、ついに外道丸の山刀が綱の右腕を切り落とした。

腕の付け根から血が噴出し、綱が獣のような叫びとも悲鳴ともつかぬ声を上げ、天井に張りつき恨みに燃えた目で睨みつけると、次第に眉が吊り上り目が赤く充血し口が裂けていってその人相がみるみる変わっていった。

外道丸、犬丸、猿丸の三人とも、これにはさすがに驚いて見守るだけで、綱の顔と身体は鬼のように変身していった。

「カー!」と荒い息を吹きかけると、鬼は怪鳥のような速さで身を翻して外に逃げ出した。

外道丸がすぐにその後を追ったが、鬼は中庭にいた馬に飛び乗りそのまま邸内から逃走した。

外道丸は、落ちていた槍を掴み、馬に乗って逃げる鬼をめがけて思いっきり投げた。

槍は矢のように飛んでいって、鬼の背中から心臓を刺し貫いた。
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15、頼光の怨霊

頼光が外道丸に首を斬られて死んだその日から、関白道長が重い病に倒れた。

道長はあらゆる陰陽師に頼光の怨霊を払うようにに頼んだが効き目は無く、日に日に衰弱していった。

そこに、かの空海が修したと伝えられる五壇法の秘術を使うという陰陽師・道鬼が忽然と現れた。

道長は、大陰陽師・道鬼が言うことを何でも聞いた。

道鬼も、これまでの陰陽師が口をそろえて宣告したように、頼光と四天王たちの功績をたたえ、その誉れを長く世間に伝えようといった。

もちろん、道長は受け入れた。

いや、道長それだけでなく、頼光が最も信頼していた四天王最後の生き残り渡辺綱を、頼光に与えていた受領の地位を引き継がせ、しかるべき官位も与えてこれまで以上に引き立てるつもりだった。

それは、後一条天皇の首根っこを押さえてでもさせるつもりだった。

ところが、それには道鬼が激しく反対した。「渡辺綱は人に指図されてしか事が成せぬ者で、政が出来る器ではない」と断言した。

道長が、それでは頼光の怨霊から取り殺されてしまうと抗議しても、道鬼は頼光の実弟・頼信を引きたてようとした。

それから連日連夜、道鬼は真言陀羅尼を唱え呪祖返しの祈祷を行った。

道長の絶大な信頼を勝ち取った道鬼は、黄金の金箔におおわれたぜいを尽くした自分の寺院で、五大明王を安置したそれぞれの壇の前で護摩を焚いて五壇法の秘儀を執り行っていた。

それにもかかわらず、道長の病状はだんだん悪くなるようであったが、道鬼の祈祷は次第に熱を帯びていきその様子は鬼気迫るものがあった。

そんな夜、般若の女の率いる一団が道鬼の寺院を襲った。

さすがに、悪魔のような道鬼の集団も秘術に熱中していて、無防備のところを襲われては成す術もなかった。

阿鼻叫喚・・・。

火を放たれた寺院は、たちまちの内に血と炎で染められまさに地獄絵図と化した。

そして、その朝未明、時の大権力者・藤原道長が多くの公卿たちに看取られながら帰らぬ人となった。
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14、毒殺と虐殺

外道丸が騒ぎにまぎれて頼光邸を抜け出し、犬丸たちがいる河原にたどりつき幻人の薬師から傷の応急措置を受け、馬を駆けて熊が瀬に戻ったときはすでに虐殺が開始されていた。

道鬼たちは、朝餉の水を汲む流れに大量の毒を混入し、熊が瀬の者を毒殺しようとしたが、おりからの強い雨で行儀の悪い子供や罪人しか殺せず、毒矢を放ってから錫杖にしこんだ刀を抜いて誰彼構わず殺傷しているところだった。

外道丸と犬丸たちが駆けつけたが、頼みの外道丸が片腕を失ってかなり衰弱していて、道鬼たちを討つことが出来ず取り逃がしてしまう。

りゅうは辛うじて無事であったが、弥次郎をはじめ多数の死傷者を出して、村は壊滅状態になっていた。
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2006年01月16日

13、酒呑童子の腕

満月の夜、外道丸は犬丸と猿丸に誘われて久しぶりに都に出た。

村を作るために必要な品物をそろえるのが一応の名目だが、犬丸や猿丸は河原に住む傀儡子の女が目的であり、外道丸は一思いに頼光たちをやっつけてしまえないまでも、その後の様子は確かめておかねばならなかった。

そしてこの満月の夜、先に述べた般若の女が率いる覆面の一団が洛外の宿で碓井貞光の一行を殺害し、道鬼の一団が熊が瀬を目指して疾風のように走っていた。

外道丸は、一人で頼光邸に進入した。

頼光邸はかがり火がたかれ大勢の兵が見張りに立っているものの閑散とした様子で、外道丸は難なく忍び込んで天井裏から頼光の部屋に降り立った。

頼光は、一人でうなされながら眠っていた。

外道丸が山刀を抜き、びっしょりと寝汗を書いた頼光の首筋に刃を当てようとすると、喘ぐようなうわごとが聞こえた。

頼光「やめろ、綱。もう熊が瀬の者には構うな、きゃつらはわれらと異なる世界に住んでおる・・・綱、もうやめろ」

外道丸は、やつれ果てて幽鬼のようになった頼光を見ていると、生みの親と育ての親を殺された過去があるとはいえども、どうしても首をとる気になれなくて山刀を鞘におさめてその場を立ち去ろうとした・・・その時、

「綱、わしの言うことが聞けぬのか!」と叫んで、突然目を覚ました頼光が跳ね起き、枕もとの太刀を取り抜き打ちに様に刀を横に払った。


あっという間の出来事で、外道丸の左腕が付け根から切断されて血が噴出した。

「綱め、綱め!」と叫びながらなおも斬りつけてくる頼光の首を、外道丸が山刀で一閃すると首が襖をつき抜けて飛んでいった。

そして首を失った頼光の身体は、騒ぎを聞きつけて駆けつけた家臣どもに向っていつまでも太刀を振るいまくった。
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12、恐るべき綱の反撃

外道丸と熊が瀬の者は、金時軍を打ち破ったあと弥次郎が年をとったことや仲間が増えたこともあって、人知れぬ場所に移動して村を作る作業に精を出していた。

一方、頼光は病に臥せっていた。

頼光が床についたのは綱に斬りかかった日からで、それ以来幽鬼のような表情をしている。

綱は、ごく側近の者だけを頼光の側において看病させた。

それでも頼光は例の恐ろしい夢を何度も見るらしく、何かというと綱を側に呼びたがった。

綱は、金時が率いる勅命軍が全滅したことも、頼光が病に臥せっていることも誰にも知らせず打つ手を探っていたが、季武が討たれた金山事件が醜聞となって広がり状況は厳しいものがあった。

そんな折、頼光が綱を呼び、正気なのか狂っているのか判然としない様子で、自分が病気で臥せっていることを誰にも知らせるなと言った。

綱が美濃の国司(頼光の代行)をしている碓井貞光にもかと聞くと、頼光はうなずいて、貞光にも金時(死んでいるのに)にも知らせてはならぬと言った。

また、頼光は自分にもしものことがあった場合、綱のことを嫌っている貞光が裏切るとも言った。

綱は、頼光の筆跡を真似た偽の密書を持たせ、美濃に向けて早馬をたてた。

密書には、頼光の名で貞光にすぐさま上洛するように申し付けた。

以前関白邸を襲った般若の面をつけた女が、大引用し安部清明の弟子と名乗る怪しげな術を使う修験者風の男・道鬼(かつて頼光の金山を発見した契機を作ったこともある)と密かにあっていた。

道鬼は、悪霊を封じ逆に呪祖返しで相手を呪殺する能力を持つと恐れられ、山中を天狗のように駆けて一晩で数十里も走るといわれる配下を抱え、薬師であると同時にあらゆる毒薬に通じていた。

そして道鬼は、密かに資金を調達して自分の寺院を持ち、関白道長の陰陽師になるという野望を持っていた。

般若の女は、手付に千五百両を、仕事を終えてから残金千五百両を渡すことで、道鬼に熊が瀬の者及び酒呑童子の殺害を依頼し、そのはかにも『ふく』という海の魚からとった無色無臭の毒薬を譲り受けた。

手勢だけを連れた碓井貞光の一行が上洛の途中、宿で酒に毒薬を盛られて死ぬのは、その日から数日もたたぬ満月の夜のことである。

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11、外道丸の逆襲・パート2

その夜のうちに、またしても頼光たちにとって恐るべきことが起こった。

頼光たちが金山のことをまだどうしていいか考えあぐねているとき、外道丸に率いられた一団が、頼光の私兵がかがり火をたいて警護する関白邸に乱入した。

外道丸たちは、その兵たちを蹴散らしながら牛を邸内に追い込み、頼光どもが盗んだ二千両を返しにきたと呼ばわった。

そして、この一団はかがり火で松明に火をつけると、そのまま頼光邸に馬を向け、火のついた松明を邸内に投げ込みそのまま逃走してしまった。

頼光と綱は、何事が起こったのかと火が燃える庭に出ると、関白邸で警護にあたっていた兵が駆け戻ってきた。

その兵の報告を聞いて、頼光は気が遠くなるようであった。

一方、勅命を受けて酒呑童子討伐に赴いた数千人に及ぶ金時軍は山中に陣を張って、まだあけやらぬ早朝から数組の物見を出して熊が瀬の者を探索していた。

山中にはいたるところに罠が仕掛けられて、林や竹薮の中から突然毒矢が飛んできて何人もの兵を殺傷したが、多勢に無勢というより精鋭の兵が下人どもを誅殺するという図式に変わりはなかった。

金時軍は、山中深く進んでいった。

そして、やっとのことで金時は、渓谷を流れるせせらぎに浮かんだ数艘の笹舟から、目指す相手が上流の滝のあたりにいることを発見した。

同日、朝から頼光は綱に代筆させて関白にお目通りのお願いを出したが、重臣によって冷たくはねつけられていた。

その夕方、夏の西日を受けた頼光は、床几に座ってうたた寝をしながら恐ろしい夢を見ていた。

血に塗れた赤子が、牙をむいて頼光に襲いかかってくる夢だった。

そこに、綱がやってきてうなされている頼光を起こそうとした。

すると、頼光は突然太刀を抜き放って綱に斬りかかった。

そして、勢い余って床で足を滑らせ、したたかに腰を打って、頼光は夢から覚めた。

綱が床にひっくり返った頼光を抱え起こし、外道丸と熊が瀬の者に騙された金時軍が深い渓谷に誘い込まれ、崖の上から無数の岩石と竹槍を落とされて、金時軍がほぼ全滅したと告げた。

再び、頼光の意識が朦朧としてきた。
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10、外道丸の逆襲・パート1

怒りが収まらないのは、預かり知らぬところで関白邸を襲ったとされ、単なるお尋ね者から朝敵に格上げされた熊が瀬の者と、女を攫って肉を食らい血潮を飲むという酒呑童子に祭り上げられた外道丸である。

外道丸は、犬丸と猿丸を伴いすぐさま都に出て頼光邸を偵察したが、溢れる兵で近づくこともできないありさまだった。

しかし、ここでへこたれる外道丸ではなく、すぐに女と同衾する検非違使別当の屋敷に向い、素裸の別当を攫って山中に戻った。

検非違使別当とは言いながら、武家とは違って所詮貴族の高官でしかない。

外道丸たちが監禁して焼け火箸を突きつけると、別当は綱の非道をあげつらいべらべらと吐いてしまった。

事情を知った外道丸は、別当を贈り物の箱に詰めて頼光邸に送りつけた。

そして、頼光たちが贈り物を開けて裸の別当を発見した頃には、外道丸は犬丸と猿丸に加え熊が背の若者を引きつれ、頼光が保持する金山へと馬を走らせていた。

別当の引きであった検非違使・坂上次郎は、関白邸襲撃の祭に警護にあたらせられていたが、今では頼光が組織する兵の武将として金時の配下に組み入れられていた。

次郎は、綱と金時に呼びつけられ、別当の首と手足をバラバラに斬り、誰だかわからぬようにして野犬にでも食わせろと命令された。

その次郎が泣き泣き命令を実行しているときには、外道丸たちはすでに金山にたどりついていた。

闇に乗じて崖を下り、毒矢で見張りの者を倒し、金山を警備する武者だまりに殴りこみ、外道丸がちょうど泊り込んでいた占部貞光の胴を薙ぎ払い、犬丸と猿丸が罪人たちを解放して馬と武器と大量の金を奪っていた。

その朝、金時が率いる勅命軍は皆の期待を背負って頼光邸に集結していた。

頼光は大勢の兵を眺めながら上機嫌だったが、そこに金山からかろうじて抜け出した血みどろの武者を乗せた早馬が到着し、貞光の死と金山が外道丸たちによって落とされたと報じた。

頼光と綱は、余りの報告に愕然とするばかりだった。

そしてその頃、弥次郎たちはより深い山中に逃げ込み、外道丸たちは新しい仲間(罪人たち)を増やして、牛に大量の金を積んで京の都に向っていた。
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9、酒呑童子、関白邸を襲う

それから間もない夜、ちょうど外道丸がりゅうとの間で結婚式を上げてはじめて結ばれた夜に、関白邸は般若の面をつけた女に率いられた酒呑童子と名乗る覆面の一団に襲われた。

渡辺綱が言った通り二千両の砂金が盗まれ、『御堂関白記』執筆中の道長を大いに驚かせて、ちょっと多かったが雑色及び検非違使の放免たち十数人余りが殺傷された。

この事件は、綱の狙いどおり都中をあっと驚かせ、また内裏でも大きな問題となった。

そしてこの事件で、源頼光ははじめて後一条天皇に拝喝を許された。

御簾を隔て間接的にしか話はできなかったが、帝に問われた頼光は、この賊を酒呑童子が率いる熊が瀬の一味と決め付けた。

その上で、酒呑童子を女を攫ってはその肉を食らい血潮を飲む鬼のような者だと証言し、帝をはじめ居並ぶ公卿たちを大いに震撼せしめた。

勅命は、関白道長の助言により即日発せられ、頼光が都に兵を組織しその討伐にあたることになった。

こうして、頼光は願ってもない状況を得て都に兵を構えることができた。

いたるところから兵が集まり、頼光の元には公家たちが多大の贈り物をよこしてきた。

そして、頼光はこのときとばかりに、改めて四天王に役割分担(政治、経済、軍事、国司)をして組織の拡大を図り、名実ともに綱を自分の後継者として総大将にすると言明し、坂田金時を勅命の侍大将に据えて酒呑童子の討伐に赴かせようとした。
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8、もう一人の怪物、渡辺綱

この事件から、本格的に頼光と四天王を彩る歴史が動き始めることになる。

少なくとも、この事件は頼光にとって白昼に通り魔に出会ったようなものだったが、武力で何百何千人もの人間を殺戮してきた頼光にとってありうべき事態で、思い出すだけで頭に血が上りその怒りはますます高まるばかりだった。

また、この事件は渡辺綱にとっても耐えがたい侮辱であった。

頼光の怒りは女物の衣装をまとった外道丸の姿に増幅され、なかなか都に兵を構えさせぬ関白道長や他の貴族たちに対する長年の不満とあいまって、頼光の怒りは激しく綱にまで向けられた。

「国許から兵を呼べ、それがならぬなら都に兵を構えよ。公家どもががたがたぬかすなら殺してしまえ、どんな手を使っても都に兵を構えるのだ」

こうして事件は、ただ頼光たちにとどまらず関白道長をも巻き込んで、予想以上の急ピッチで大きく状況を変えていくことになる。

頼光の命を受けた綱は、どこまでも冷静に堂々と兵を構えるための方法を考えた。

あるいは、頼光はそんな綱の能力を買っていたのかもしれない。

頼光は自分にもしもの事があった場合、綱にすべてを継がせるつもりだった。

綱の動きは速い。

綱は、早速武装した数十人の兵を連れて、検非違使から要求されていた賄賂の砂金千両に二千両を加えて、正面から検非違使寮の別当の執務室に乗りこんだ。

そして、このたび都に兵を構えることになるが、それについて別当の特別の協力を求めたいと単刀直入に申し込んだ。

数日後の夜に盗賊どもが関白邸を襲い、二千両の砂金と警護の雑色や下部を数人殺傷するが、検非違使は知らぬ振りをしておいてくれというのが詳細な協力の内容だった。

別当は、三千両もの大金を検非違使に持ち込まれ、大刀を抜きその切っ先を自らの腹に据え、聞き入れてもらえぬときは腹を掻っ捌く(別当を斬ってから)という、綱の命を張った脅しには逆らえなかった。

それでも、別当がそんな無法が通ったら都中が毎夜恐れおののくことになるというと、綱にそれが狙いだと応えらては、さすがに賄賂ずくめで動く別当も暗澹たる思いがした。
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7、頼光邸を襲った怪物

外道丸たちの牛車が市場ののある賑やかな通りにさしかかったとき、正義感にあふれる検非違使火長・坂上次郎(悲惨な運命をたどり、最後まで物語に登場する)が、何を思ったか外道丸が乗る牛車を怪しいと睨んで、今にも取調べをはじめそうな雰囲気になった。

犬丸と猿丸が気取られぬようにやり過ごしてほっとしたと思ったら、次郎はどこまでもしつこく尾行し始めた。

しばらくそのまま行くと、今度は犬丸がまた何を思ったか突然頼光邸の中に牛を追っていった。

犬丸がかるく手を上げて挨拶すると、門を守る雑色が手を上げて挨拶を返し、牛車は難なく頼光邸の中へ入っていった。

そして、次郎は雑色に何事かを訊ねてそのまま立ち去っていった。

その牛車は、頼光邸に住む大納言藤原道綱(関白道長の実弟で、頼光の娘の夫であり、ずっと頼光邸に住んでいる)の実家の者が乗っていた牛車で、犬丸たちが盗んだものであった。

頼光邸の雑色は、それが大納言の実家の牛車だと走っていても、それが盗まれたとは知らなかったのだ。

また、検非違使の次郎は以前、犬丸たちとその牛車を偶然目撃していたのだが・・・。

こうして外道丸たちは頼光邸に入りこんだ。

外道丸の行動は、獰猛な肉食獣のように俊敏で乱暴である。

女装したままの姿で外道丸は犬丸と猿丸を連れてまず頼光の部屋に押し入り、飾ってある南蛮人から獲った戦利品の鎧兜(冒頭のパレードで頼光が身につけていたもの)や刀剣などを獲り返し、またりゅうに送るべき美しい衣装などを片端から略奪し、ようやく賊の進入に気づいた雑色などが駆けつけた頃には馬を奪って逃走しようとしていた。

雑色や下部たちを蹴散らして中庭に出たとき、ちょうど頼光と渡辺綱が戻ってくるのと出くわした。

頼光は信じられない光景に呆然となる。

さすがに綱は勇猛高い歴戦の武士で、たちまち外道丸らと斬り合いになるが、戦いのルールを無視した犬丸と猿丸の攻撃にたじたじである。

そして、外道丸が熊でも斬り捨ててしまいそうな山刀を軽々と振り回しながら、「さあ、ここらで退散するぞ!」と二人に声をかけ、頼光に向って襲いかかりそのまま邸内から逃走した。

綱が馬を下りて、地面にうっぷした頼光の元に駆け寄った。

頼光は馬から落馬して、危うく一命を取り止めたのだった。
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6、はじめての京の都

外道丸がはじめて京の都に出たのは、犬丸と猿丸に出会ってすぐのことだった。

それまでにも、今日の街を見てみたいという気持ちもあり何度か出かけてみようとしたが、人目に立ちすぎる自分の姿を思うと、なかなか出かけていく気にならなかった。

ところが、犬丸と猿丸にかかると、外道丸が気にしていることがすべて簡単に片付いた。

外道丸たちは都の近くまでは馬で飛ばし、そこからは輿のある牛車で行った。

この頃、紫式部が藤原道長をモデルにしたとも言われる『源氏物語』を発表し、関白道長が全盛時代の反面、毎年のように飢饉は慢性化し、全国的に疱瘡など疫病が蔓延し、京の都はあちこちに行き倒れやその腐乱した死体が悪臭を放ち、さまざまな恐ろしい怨霊流言蜚語が飛び交い、夜盗偸盗柱頭の類が横行し治安風紀は乱れ、都を守るべく検非違使までもが盗賊(犬丸や猿丸たち)に襲われ、ますます頼光たち武家集団は勢力を拡大しつつあった。

頼光は、道長の土御門邸完成の祝いに莫大な贈り物を献上し、当然のように道長がかの有名な望月の歌を読んだ酒宴にも他の貴族と同じような化粧を施して参加し、若い夜盗に襲われた検非違使をあざ笑い着々と武家の基盤を作っていた。

外道丸たちの牛車は、どこかの女御が都を見物するように、街中をゆっくりと通っていた。

犬丸が牛飼童になり御者席に座り、牛車の後ろには荷を担いだ猿丸が下部に扮して従い、輿には女装した外道丸が艶っぽい衣かつぎを被って乗り、御簾の陰から外の景色を珍しげに覗いていた。

そして外道丸は、はじめて都に出た日に、白昼堂々、ひょんなことから頼光邸に乗りこむことになり、頼光たちと運命的とも言える出会い(再開)をしてしまう。
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5、アングロサクソンの恋人と仲間たち

熊が瀬の者たちは山中生活に逃げ込んでも、頼光たちの執拗な追跡からなかなか逃げることはできなかった。

都の市場で竹製品や毛皮などを商っていた者が、頼光たちの要請を受けた検非違使に拘束され罪人として金山に送り込まれたり、逃げようとして惨殺されたりした。

また、金時たちが狩りをしているとき、蜜を取る蜂の世話をしていた女が見つかり、外道丸の育ての母親たきをはじめ何人もの女たちが狩りの餌食となって殺された。

このような状況下で、外道丸は熊が瀬の者として育てられ、森の中を自由に駆け回り狩りをしながらすくすくと育った。

長じてからは単身丹波の山奥に入り乱破道宗のもとで文武両道を学び、いつしかアングロサクソン的体格と風貌を際立たせながらたくましい若者に成長していった。

また、外道丸は人並み優れた肉体と知恵を持ちながら、言うなればコンプレックスを持って成長した。

熊が瀬の者や丹波の乱破道宗は同州のところでは、分け隔てなく人並みに扱ってくれるが、世間一般の人が自分のことをどう見るか容易に想像できた。

成長するにつれて外道丸は、その民族的特徴が著しく顕著となり、六尺を優に超える体躯と彫りの深い顔に青い目を持ち、頭と白い肌には赤い剛毛が密生するようになり、当時の一般的な日本人と比べるとその姿はまるで鬼であった。

そんな外道丸にも、やがて恋人と友達ができる。

恋人は、海の側に住むりゅうという名前の貧しい漁師の娘である。

季節ごとに、山人である熊が瀬の者は山の幸(箕などの竹製品、毛皮などの革製品、猪や鹿などの獣肉、蜜など)を担いで若狭の海に出かけ、海人と海の幸(魚介類の干物、干した海藻、日用品など)を交換する。

そこで巨大な大蛸を通して知り合ったりゅうと外道丸はその後結婚することになるが、後に酒呑童子が攫ったといわれることにもなる美しい娘である。

友達は、犬丸と猿丸という名前の若い牛飼童である。

犬丸と猿丸の二人は、些細な乱闘事件に巻き込まれたことから罪人となり、頼光の金山で労役に処せられていたが、過酷な条件で死ぬまで働かされることを知り脱走したという若者である。

多少無頼の気があった牛飼童に過ぎなかった二人は、頼光と検非違使に関しては一方ならぬ恨みを持つようになり、いつかこっぴどい目に会わせてやろうと思っていた。

そしてこともあろうに、検非違使寮を襲い馬を盗むという前代未聞の事件を起こし、都に住めなくなって逃走中に外道丸と知り合った。

因習にとらわれず、権力をおちょくり、好きなことをやらかしては喜ぶのが犬丸と猿丸の二人で、その後外道丸とともにこの物語の主役を務め、彼らこそ後に酒呑童子の子分として名をなす茨木童子たちなのである。
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2006年01月15日

4、のし上がる頼光と四天王たち

頼光たち武家集団は、武力による実力行使とそれを誇示することで、次第に勢力を拡大していった。

だが当時は、貴族に比べるとまだまだ武家の地位は低かった。

頼光たちは、より高い官位を売る為に藤原道長をはじめとして高級貴族におもねり、時には多大の贈り物をしなければならない立場だった。

早くから藤原摂関家の家司として各地の受領を歴任(淡路・伯耆・讃岐・尾張・備前・美濃)してきた源頼光は、そのようにして誰よりも道長に深く取り入る一方で、民百姓から年貢を搾り取るだけ搾り取りながら、中央にはごまかしの報告をして蓄財を重ね、さらに四天王を縦横に使った独特の方法で豊かな財産を築いていった。

例えば、四天王の頭的存在の渡辺綱は、ある山中一帯を都に恨みを持つ熊が瀬の者が潜む危険地帯だと布れを出し、占部季武や坂田金時を侍大将にした兵を駐屯させてだれも立ち入れないようにしていた。

その山中には、関白道長にも報告せず、頼光たちが密かに保持する金鉱があった。

渡辺綱は、その秘密を知られないために、もともと土蜘蛛であった熊が瀬の者が今では凶悪化して鬼となり、近付く者を殺傷し取り食うからといって勝手にその辺一帯を前面立ち入り禁止にしていた。

また頼光は、検非違使の別当・坂上琢磨に賄賂を渡し仲間にとりこみ、金鉱の労役に罪人を送り込ませるといった悪辣ぶりで、武家集団の中でもとりわけ勢力を拡大しつつあった。
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3、弓と馬を操る人々

この事態には、さすがの頼光と四天王も顔色を失った。

祟りを恐れた道長は、この赤子の未来を陰陽師に占わせることにした。

そして、その結論が出るまで、赤子の身柄は頼光の下人である熊が瀬の者に預けられた。

熊が瀬の者とは、もともとは弓を持ち馬を操り猟をなして暮らしてきた誇り高き狩猟民で、すなわち頼光が退治したといわれる恐ろしい土蜘蛛の一味であった。

彼らは貧しくとも豊かな生活を送っていたが、ある日突然頼光たちによって攻め入られ、殺戮と虐殺からかろうじて逃れた者が今では下人として生き延びていた。

熊が瀬の弥次郎は、短い間ではあったが赤子の母親を知っていた。

罪人篭を担いで都大路を歩き、雑色に殴られながら南蛮人に水を飲ませ、処刑場に控えさせられて一部始終を目撃し、墓を掘りその亡き骸を埋めたのが弥次郎たちだった。

青い瞳の女は、柄杓の水を美味しそうに飲んだ後、言葉は何を言っているかわからなかったが、胸の前で十字を切り弥次郎を拝んでいるようであった。

弥次郎は、白砂の上を這いずりまわる赤子を拾い上げて村に連れ帰った。

子供ができぬ女房のたきが、産湯を使って血のりを落とすと、赤子は見たこともないような白い肌をしていた。

牛の乳を入れた瓢箪を口に含ませると、赤子はごくごくとのどを鳴らして飲み干し、天子のような笑みを見せてすやすやと眠りについた。

「殺してしまえ!」という陰陽師の宣告を無視し、熊が瀬の者が赤子を連れてどこかに逃亡し、村がもぬけの殻になったのはその夜の未明のことだった。

以前から、頼光の下人でいることに我慢ならなかった弥次郎は赤子をとても殺す気になどなれず、村を出て山に入り獣の乳を飲ましても育てようと決心した。

仲間の何人かが弥次郎と一緒に村を出ると言い出したが、何人かは陰陽師の宣告に逆らうのを恐れて反対した。

結局、巫女が憑霊の祈祷をして先祖の判断を仰ぐことになった。先祖の霊は巫女に乗り移り、野太い声ではっきりと言いきった。

「熊が瀬の者は、山神様がお恵みになる生き物以外のものを殺めてはならぬ・・・」

こうして、熊が瀬の者は頼光の支配下から脱し、全員で村を捨てて山に逃げ込み、テントで移動しながら獣を狩り蜂を飼う暮らしに戻り、外道丸も危うく生き延びることになったのだった。
posted by 映画プロデューサー at 11:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 酒呑童子ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2、外道丸の誕生

大勢の群集が見守る京の街を、派手な鎧兜を身につけた源頼光と四天王の一行が、武装した兵を引きつれてパレードよろしく練り歩いていく。

一行の中ほどには、熊が瀬のもと呼ばれる下人たちが三丁の竹で編んだ罪人篭を担いでおり、それぞれの篭には南蛮人三人(白人の男女と黒人)の捕虜が乗せられている。

このパレードは、頼光が貴族社会に対して自分たちの武力を誇示するために催したイベントで、都の人々の耳目を大いに賑わせながら、イベントのフィナーレを飾るべく処刑の場へと向っている。

処刑の場には、頼光が密かに招待した、関白道長と女たちが首を長くして待っている。

思いがけない事態は、御簾の陰に隠れた道長たちが、好奇心いっぱいでこの残酷ショーを見物している最中に起きた。

四天王たちが太刀を振るって南蛮人の首を刎ね、白砂に鮮血が飛び散り、貴族の親玉と宮廷雀の口さがない女たちが悲鳴を上げた直後のことだった。

「おぎゃあ、おぎゃあ」という激しい泣き声とともに、首を斬られて絶命した白人の女の下腹部から血に塗れた赤子が這い出し、胎盤を引きずるようにして白砂の上を蠢いた。

こうして生まれたのが、この物語の主人公外道丸であった。
posted by 映画プロデューサー at 10:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 酒呑童子ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月14日

1、プロローグ

時は平安時代、藤原道長全盛のころ。

当時、若くして時の大権力者になった藤原道長に対抗するかのようにして、源氏を代表する武家の若き源頼光が、後に四天王と呼ばれる屈強の家来(渡辺綱、占部季武、碓井貞光、坂田金時)を従えて、殺戮と略奪を繰り返しながら次第に勢力を拡大していった。
posted by 映画プロデューサー at 15:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 酒呑童子ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ストーリー 目次

1、プロローグ

2、外道丸の誕生

3、弓と馬を操る人々

4、のし上がる源頼光と四天王たち

5、アングロサクソンの恋人と仲間たち

6、はじめての京の都

7、源頼光邸を襲った怪物

8、もう一人の怪物・渡辺綱

9、酒呑童子、関白邸を襲う

10、外道丸の逆襲・パート1

11、外道丸の逆襲・パート2

12、恐るべき渡辺綱の反撃

13、酒呑童子の切り落とされた腕

14、毒殺と虐殺

15、源頼光の怨霊

16、最後の戦い

17、エピローグ
posted by 映画プロデューサー at 15:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 酒呑童子ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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